冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
失礼したいですと言おうとする奈月に、和泉は焦ったように言う。

「待って、そうじゃない、落ち着いて」

「私は落ち着いています」

「いや、和倉家の話をしてから急に顔色が変わったし、呼吸も早いように見える。俺が何か気に障ることを言ってしまったか?」

「いえ、そうではないんです。ただ……家の話はあまりしたくなくて……広川堂でも一部の人にしか事情を言っていないんです」

「ああ。職場で秘密にしている事情は分かるよ。広川堂は和倉百貨店に出店しているからね、社長令嬢が働いているとなったら周りが気を遣ってしまう。それは避けたいんだろう?」

「はい」

和泉の言うことは間違っていない。店主や深雪にはそのような事情で口外しないでと言ってあるのだから。

ただ自分の惨めな生活を知られたくなくて、家庭環境だけは誰にも言っていない。

広川堂の人たちも和泉も、奈月が自由を制限されて孤独に暮らしているなんて思いもしないだろう。

「気遣いのない発言をして悪かった。個室だからと油断してしまった」

「いえ……私こそすみません。驚いて過剰に反応してしまいました」

和泉は目を細めて微笑んだ。
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