冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
和泉から何度か着信が有ったが、出ていない。

反応がない奈月を心配したのか、段々と着信の頻度が増してきていた。

このまま逃げていたら、彼は家まで来てしまうかもしれない。

早く連絡しなくてはと焦るが、これから自分が口にする内容を思うと吐き気がするほど憂鬱になる。

(でも、やらなくちゃ)

奈月は意を決して和泉の番号にコールする。

彼は奈月からの連絡を待っていてくれたのかもしれない。コール音二回で慌てたような声が聞こえてきた。

「奈月?!」

心配そうなその声を聞いただけで胸が痛くなり、こみあげるものをぐっとこらえた。

泣いてしまっては声で和泉に気付かれる。そして何があったのかを追及される。

あくまで冷静に、そして淡々とした態度でなければ嘘が見抜かれてしまうだろう。

叔父から脅されているのだと気付かれる訳にはいかない。知ってしまえば彼は叔父に抗議して争いになる。奈月の事情に巻き込まないと決心したのだから、それだけは避けなくては。

「奈月、どうしたんだ?」

黙ったままの奈月を、和泉がじれたように呼びかけてくる。

「……和泉、ごめんなさい電話に出られなくて」

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