冷徹旦那様との懐妊事情～御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない～

「事情なんてないよ。ただ……和泉より好きな人が出来たの」

和泉が絶句する。

「だから別れて下さい」

その言葉を言った途端にくらりと眩暈がした。心臓がドキドキと脈打ち途方もない不安感に襲われる。

（本当にこれでよかったの？）

昨夜から沢山考えた。そしてこれが最善だと決めた。だけど自分は取返しのつかない間違いを犯してしまったのではないか。我に返ったように後悔の気持ちが襲って来る。

動悸が激しく呼吸が苦しくなる。思わず立ち上がり窓辺に寄った。日当たりの悪い窓に何を求めたのか自分でも分からないけれど、居ても立っても居られないのだ。

混乱する奈月の耳に、和泉のそれまでとは違った低く冷ややかな声が届いた。

「本気なのか？」

彼の強い怒りを感じ恐怖を覚えた。だけどもう引き返せない。機械のように同じ言葉を繰り返す。

「はい、だから別れてください」

和泉は答えなかった。重い沈黙が耐えられず奈月は言葉を続ける。

「和泉は私と別れてもすぐに次の相手が見つかるでしょう？　それに元々私ではつり合いが取れてなかったんだし周りの人からも別れてよかったって言われると思うよ。結果的に和泉のためになる……」