冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
ドクリドクリと血液が体を巡る。

(無理よ。顔を見て冷静に話せるわけがない)

きっと泣いて何もかも打ち明けてしまう。そして和泉に迷惑をかけて、それどころか彼を危険に晒すことになるのだ。

「和泉、私は……」

「明日、待っている」

和泉は奈月の否定の言葉を聞き入れず、通話を終わらせた。

きっとこれ以上話しても埒が明かないと判断したのだろう。

奈月は通話を終えたスマートフォンを持ったまま、その場に崩れ落ちた。

「行けないよ……」

本当は今すぐにでも和泉の元に行きたい。だけどそれは出来ない。

ぽろぽろと涙が溢れて来る。

どうして自分は幸せになれないのだろう。

両親に続き祖父母も居なくなり叔父夫婦が現われてから奈月の人生はままならないことの連続だった。
それまで当然のように与えられていた豊な生活すら取り上げられ、働きに出るまでは自由のない抑えつけられた日々だったのだ。いつも暗い顔をしていたせいか友人もなかなか出来なくて楽しいと感じることなど滅多になかった。

だけど好きな仕事をはじめて生活が変った。相変らず自由は少なかったけど、仲間も出来たし仕事はやりがいがあって楽しかった。
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