冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
そして和泉と出会えて、これからは幸せになれるんだとそう思っていたのに。

(こんなことになってしまうなんて)

この先、心から笑えることなんてないのだろう。

奈月はこの家で、我慢をしながら生きていくのだから。

自分で選んだ道なのに辛いし怖い。

心に突き刺さった棘のような痛みは、これからも奈月を蝕んでいく。
暗い絶望が広がり、苦しさに目を閉じた。



翌日。奈月は朝から落ち着かない気持ちで過ごしていた。

和泉のことが気がかりで何度も時計を眺めてしてしまう。

『明日の夜九時にいつもの場所で待っている』

彼の声が頭から離れない。

いつもの場所とは、ふたりでよく日向ぼっこをした川沿いの遊歩道にある休憩所のことだ。
春には美しい桜並木が楽しめるそこで、ふたりで穏やかな水面を眺めながらのんびりする時間が心地良かった。

(ひとりで待たせてしまうなんて……)

強い罪悪感を持ったけれど、行くことは出来ない。

その代わりに帰宅後すぐに叔父の元に向かい、和泉と別れたと告げた。

彼はあからさまに喜び、珍しく奈月を褒めた。

「少しは賢くなったようだな。よしお前の次の相手は俺が上手い具合に選んでやるからな」
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