冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
十月五日。奈月は広川堂の仕事を休み、和泉の待つ司波本家に向かう為、長く住んだ和倉家を出た。

祖父母が亡くなってからはろくな思い出がないけれど、それでも長く過ごした場所。

一抹の寂しさを覚えつつ、叔父と共に車に乗った。

「いいか、司波家に入ったからといって調子に乗るなよ?」

「はい」

「まあ本家には怖い女がいるからな。お前に何か出来るとは思えないが」

「怖い女?」

叔父は意地悪くにやける。

「知らなかったのか? 和泉の姉だ。女だてらに会社を経営している。かなり激しい気性だって噂だから愛理と上手くやれるか心配だったんだが……そうだ。その姉についての情報を俺に知らせろ」

愛理が嫁ぐときの対策にでも使いたいのだろうか。

それにしても和泉の姉の存在についてはすっかり失念していた。

付き合い始めた頃に、四歳年上の姉がいると聞いた覚えはあるけれど、それ以来話題に上がったことは無かったから。

(お姉さんと仲が良くないのかな?)

そうだとしたら同居は気まずいのではないだろうか。

(ううん、今はそんなこと考えてる場合じゃない。和泉と再会したら謝って、それから……)
< 91 / 226 >

この作品をシェア

pagetop