冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
憎悪。それ以上の感情が彼からは感じる。
(無理……協力なんて頼めるわけない。謝る機会もないかもしれない……)
体が震えて止まらない。その場から動けずにいると叔父の媚を売るような猫なで声が辺りに響いた。
「和泉さん、わざわざお出迎えをありがとうございます」
「お気になさらず。当然のことですから」
「本当にありがたい……亜貴さんまでお出迎えを頂き申し訳ありません」
叔父の言葉でようやくその場に和泉以外の人物がいることに気が付いた。
司波家の使用人と思われる年輩の男女が一人ずつ。そして長身で隙のない身のこなしの女性がひとり。
和泉と同じように背筋を伸ばし、堂々とした振舞い。
(この人が和泉のお姉さん)
彼女は奈月と和泉の関係を知っているのだろうか。奈月に向ける視線は穏やかではない。
(怖い……)
深雪たちに相談したときは希望を感じたけれど、今は心ぼそさに襲われている。
決心は早くも崩れ落ちそうになっていた。
その後すぐに司波本家の屋敷応接室に移動した。
叔父は普段の尊大な態度を見事に隠し、おべっかばかり使っている。
「何も出来ない娘ですがよろしくご指導をお願い致します」
亜貴は叔父の言葉を受けて奈月に目を向ける。
奈月は慌てて頭を下げた。
「和倉奈月と申します。本日よりお世話になります」