冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
「……そうですね」

辛さを見せないため、久しぶりの再会だというのに言葉が少なくなった。
再会したらまずは謝ろうとしたけれど、彼にとって今更の謝罪など煩わしいだけだろうと思うと勇気が出なかった。

そんな態度を取ったからか、和泉は奈月も同じ気持ちなのだと受け止めたようだ。

「わざわざ言う必要はなかったようだな」

皮肉気に笑いながら言い捨てると、その場から立ち去った。



扉が閉まり奈月がひとりきりになると、途端に部屋は沈黙で満たされた。

奈月は詰めていた息を吐きその場にしゃがみ込んだ。

立ち上がる気力が湧かず、そのまま膝に顔を埋める。

短いやり取りでも受けた痛みは大きく、未だズキズキと疼き体中を巡っているようだった。

(和泉の……あんな冷たい目、初めて見た)

突き放したような眼差しを向けられ、完全に嫌われたのだと改めて自覚した。

奈月への愛情を惜しみなく伝えてくれていた優しい瞳はもう見られないのだ。

(私……覚悟なんて全然出来ていなかったんだ)

悲しさがこみ上げるのを止められなかった。
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