冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
その後すぐに亜貴が戻って来た。
慌てて涙を拭い取り繕う。
亜貴はほんの僅かだけ眉をひそめたので、奈月が泣いた事に気付いたのかもしれないが理由を追及してくるようなことはしなかった。
「和倉さん帰られたわ」
「お見送り頂きありがとうございます」
「いいのよ。ところで和泉はどこに行ったのかしら?」
亜貴は怪訝そうに首を傾げる。
「すみません。少し前に出て行かれたんですが、行き先は聞いていません」
「婚約者を置いていなくなるなんて気が利かないわね。本来なら和泉が奈月さんを案内するべきなのに」
亜貴は不愉快そうに呟いたあと、気を取り直したように言う。
「ごめんなさいね。何が気に入らないのか分からないけどここ最近機嫌が悪いのよ。その内治ると思うからあまり気にしないで」
「はい」
亜貴は奈月と和泉の関係について知らないようだ。それから和泉の意向も。
「奈月さんが使う部屋に案内するわ」
「ありがとうございます」
亜貴について応接室を出て広々したロビーの階段を上った。
司波家は広い洋館で天井も高い。長い階段を上り切ると広い廊下があり部屋が並んでいる。
「奈月さんの部屋は南側にあるの。和泉の部屋の隣よ」
「えっ!」
思わず声を上げた奈月に、亜貴は苦笑いをする。