その台詞をもう一度
いつもと何も変わらない通学路を一人で歩く。

…変わったことといえば、一人で帰るようになったことだけ。

まだ夕方だというのに日は沈みかけていて、指先が冷たかった。


彼と別れて半年。

季節はもう、冬になろうとしていた。

……にも関わらず、あいつの面影を探してため息を吐いてしまうのは、今も好きだから、なのだろうか。

もしそうならどれだけ重いんだ私。

なんて、自嘲気味に思いながら少し目を閉じる。

すると、瞼の奥に嫌でもあいつの顔が浮かび上がってきたので辞めた。

忘れられなかった、あいつの笑顔。

もう一度ため息を吐くと、すっかり冷え切ってしまった指先を隠すように拳を握った。

何でこんなに寒いんだろう。

一人になったから?

…あながち間違ってなかったりして。

そんなことを考えながら、音楽でも聴こうとバッグの中に手を突っ込んでスマホとイヤホンを取り出す。

その時、向こうからやってきた誰かとすれ違いざまぶつかった。

慌てて謝ったけれど、その女性は何も言わずに私をひと睨みしてから忌々しそうに去っていった。

何あの態度。

イラッとして、思わず舌打ちした。

大人のくせに、さっきのはないでしょ。ぶつかったのはお互い様だし。

彼のことを考えていた途中のせいもあって、余計に苛立ちが募っていく。

ふと、手にしていたイヤホンがなくなっていることに気づいた。

さっきぶつかった拍子にどこかに落としてしまったらしい。

慌てて足元を見回してみたけど、一向に見つからない。

ああもう、ついてないな私。

あいつから貰ったお気に入りのやつだったのに。

もう諦めろってこと?

憂鬱な気持ちを抱え込みながら顔を上げかけた、その時。




「あの……」




小さな、耳を澄ましても聞き取れないような声が、周りの雑音に掻き消されそうになりながら、私の耳に飛び込んできて。


パッと顔を上げる。


人混みの中、別れたあいつと目が合った。















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