サンタクロースに恋をした
「でもそれって、安藤が苦しくない? 好きな人が他の人と両思いだなんて」

 私だったら絶対耐えられない。私なら、多分自分からその手を離す。

 だって、一緒に居てもきっと考えるのはその人のことで、いつか自分の元から離れていくなら自分から離してしまった方が傷付かないから。

「それに、今はもしかしたら俺の方が好きかもしれないじゃん?」

 確かに、那美、安藤のおかげでって言ってた。

 もしかして、今私がやっていることって、すごく無駄なこと? 自己満足? 

 勝手に那美はずっと先輩一筋で、もちろん今も先輩のことだけを見ていると思っていたけれど、そもそもそれが間違いだったのかもしれない。

 だって、これだけ思ってくれる人が隣に居たら、惹かれるのも分からなくないもの。

「ごめん、私……間違ってたかも。那美の気持ち、またちゃんと考えてなかった。そうだよね、人の気持ちは不変じゃない。常に変わってる。那美はきっと安藤といたいから先輩に告白されてもそばにいるんだよね」
「まあ、……そう思ってた方がいいじゃん?」
「確かに」

 ああ、こういうところかな、

 多分、那美が安藤といて楽になれるって言ってたの。

 自分が深く落ちていきそうなときに、安藤はすっと掬ってくれる。心が重くなる前に、軽くしてくれる。

「あんたのこと、少しは見直した」
「なんだよ、少しはって」
「いいのいいの。そんな細かい事気にしないで」

 もう少し、この恋の結末を黙って見届けるのもいいかもしれない。うん、そうしよう。

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