サンタクロースに恋をした
 結果、私と渉先輩が残って後の人たちは梨衣名先輩に連れられて行ってしまった。

 この状況……1つ屋根の下に2人きり。沈黙だと心がもたなくて、とにかく何かを話そうと言葉を紡ぐ。

「皆、行っちゃいましたね」
「そうだね。あ、なんか飲む?」
「はい」

 紅茶でいいかな? という先輩に、はいっと返事をする。

「蜂蜜、いる?」
「蜂蜜ですか?」
「あ、うん……僕の家では砂糖じゃなくて蜂蜜なんだ」
「そうなんですね。じゃあ、頂きます」

 紅茶に蜂蜜なんて、なんだかお洒落だなあと思いながら先輩を見ていると、目が合う。

「座って待ってて」
「あ、はい」

 どうしよう、さっきまでは平気だったのにだんだんと緊張が高まってくる。落ち着こう、それに、私の恋人は安藤なんだから。

「あ、あの。ちょっと、お手洗い借りてもいいですか?」
「ああ、うん。出て右に曲がって突き当たったところにあるよ」
「はいっ」

 鼓動の早い心臓を一旦落ち着けるために、先輩から少し離れることにした。

 トイレに来て、ドアに寄りかかる。

 なんで安藤まで温泉行くかなあ? 私と先輩を2人にするなんて、安藤は何も考えていないの? 

 もう、安藤の中には『嫉妬』っていう言葉は存在しないの?

 少しして、一応手を洗ってからハンカチで手を拭いてトイレを後にする。

 あ……このハンカチ。私はポケットにそれを押し込んだ。

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