サンタクロースに恋をした
 公園に来ると、空いているベンチに腰掛けた。

「お前、言い返すくらいできねえのかよ、ったく」

 苺大福を食べようとした時、安藤がようやく口を開く。

 言葉には棘があるけれど、その口調にはそんなのは一切なくて普段は感じられない優しさが伝わって来た。

「ごめん、あと……ありがとう」

 安藤にこうして感謝を伝えるなんてことがあるなんて。いつものふざけてばかりの安藤がカッコよく見える。

「だから、俺にしとけって言ってんじゃん?」

 だけどやっぱり安藤は安藤で、ようやくいつもの冗談が聞けたことに、ほっと胸を撫で下ろした。

「そ、それとこれとは別だからっ」
「なんだよ、つれねえな」

 その時、風が吹いて紅葉した葉を揺らす。木についている葉がその風に揺られて舞い、葉が躍る。

 赤と黄色の葉がこの空間を色付けている。

「ねえ、苺大福食べましょうよ」
「うん、そうだね」

 挟まっている苺を食べるのが正解なのか、それとも大きな口を開けて苺とお餅と餡子を一緒に食べるのが正解なのか。

 うーん……。

 えいっ。

 目を閉じて口の中に入れられるだけ入れた。
 噛むとお餅と苺が口の中に入ってくる。

「ん……」

 2口目からは餡子も一緒に。

 餡子と苺の味が口の中で混ざり合う。ああ、これが莉子や渉先輩の言う甘酸っぱさと甘さのハーモーニーなんだ。

 確かに、美味しい。

「どう?」
「うんっ、美味しい」

「だな。俺もそんなに苺大福って食べたことないけど、さっぱりしてて食べやすい」

 そう、餡子って私甘ったるくて好きじゃなかったけれど、苺大福は苺があるおかげでそれが薄まる。

「あんなやつのことは、この苺大福でさっぱり忘れて、新しい恋に進も?」
「うん、そうする」

 そうだ、あんなやつに私の恋を邪魔されるなんて、さっきのことを思い出すとだんだんと腹が立ってきた。 

 よしっと、決意したとき
「あのさ……」
 と、安藤が苺大福を食べる手を止めて私に目を向けた。安藤は姿勢を正す。私もつられて背筋をピンとした。
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