サンタクロースに恋をした
「あ、安藤」

 なんで今姿を現すのが安藤なのか。この前から、私の心が弱っている時に限って隣に来る。

「どうした? 空なんかぼーっと見て」
「……別に、奇麗だなあって」

 こんな分かりやすい嘘、ついても意味ないのに。それでも、悲しみを隠すには必要だった。

 でも、そんな私の心内を安藤は読み取ってしまったみたいで。

「ふーん……、なあ、今度映画観に行かね?」
「は、なんであんたと?」

 素直じゃない。断るにしても、もっと優しい言い方があるじゃない。

「チャンス、くれるんじゃなかった?」

 確かにあの時私は勝手にしろと言ったけれど。自分が1度口にした言葉を否定するのは無責任なことで、私は仕方なく首を縦に振った。

「よしっ、何観たい?」
「いいよ、なんでも」
「じゃあ……今流行りのやつで」
「はいはい」

 多分安藤には私が落ち込んでいるのが分かっていて、励ますためにこうして気分転換になるものを見つけてくれている。

 相手のことを見ているから、好きだから分かる。その人の小さな変化さえも、他の人は気付かないような些細なことを。
< 34 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop