サンタクロースに恋をした
 涙さえも出てこず、ただただ彼の言葉が頭の中で反復する。好きな人……好きな人……。

「は? 好きな人ってなに?」

 ようやく出てきた言葉はそれだった。

 恋人がいるのに、他に好きな人? それって、私のこと好きじゃないってこと? と、怒りが湧いてきて、それは徐々に悲しみに変わり、ようやく現実が自分の中で消化し始めることが出来たところで涙がすうっと頬を伝う。

「ていうか、なんで…………今日なの?」

 せめて、昨日とか、明日とか、クリスマスという日に別れを選ばなくてもいいじゃない。クリスマスという神聖な日に……。

 悲しみや怒りや絶望が心の中を渦巻いて自分じゃその気持ちを落ち着かせることすら出来ないと思ったその時。

「クリスマスプレゼントです」

 全てを包み込んでしまうような、優しい声が聞こえてきた。下に向けていた視線を、その声の主に向ける。
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