サンタクロースに恋をした
「あんた、これでいいの? 先輩に取られちゃうよ?」
「取られるも何も、あいつは先輩のことしか見てねえじゃん」

 平川の友達の時藤が、俺が平川を見送ったタイミングで話し掛けて来た。

 こいつには、大分前から俺の気持ちはばれている。だけど、応援もしてくれなければ特に邪魔もしてこない。

「そうかな……あんたの那美への元カレの言葉、結構あの子の胸に響いたと思うけど。かなり救われたと思うよ」

 正直、時等は何を考えているのかいまいち掴めないから苦手だ。

「でもさ、結局あいつが好きなのは……」

 あの先輩に見せる表情と俺に見せる表情が全然違うことははっきりと分かる。

 先輩に見せる目は潤んでいて、恋する女子そのもの。俺は、あいつが落ち込んだ時に少しだけ励ますことくらいしかできない。

「私は正直、先輩よりもあんたのほうがいいと思ってる。まあなにより、あの子のことずっと好きでいてくれてるしね?」

 時藤はにやりと笑って俺の顔を見た。全てをお見通しですよと言いたげなその顔に、俺は視線を逸らす。

「こればかりは本人の気持ちが一番大切だろ」 

 俺がいくら気持ちをあいつに伝えたって、それを受け取ってもらえなければ意味がない。

「あんたって意外と、いい奴なのね」
「今更かよっ。ったく、前から俺はいい奴じゃねえか」
「調子に乗んな」

 時藤は水が一瞬で凍りそうなほどの冷たい視線を俺に向けてくると、さらに冷たさを帯びた声でそれを言ってきた。

「怖っ」

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