サンタクロースに恋をした
「ってわけなの」

 あの時のことを思い出すと、今でも不思議な気持ちになる。まるで夢を見ていたかのように現実味のない出来事に、胸がふわふわとなる。

「あの日、そんなことがあったのね。まるでドラマみたい」

 結局、今もなお彼には会えていない。

 そもそも名前も知らないし、顔だってほとんど見えなくて覚えているのはあの吸い込まれそうなグレーの瞳のみ、あとの手がかりと言えば、ふんわりと香ってきた苺の香りだけ。

 現実味がない人だったなあ……なんて思っている時。

「へえ、そんな名前も知らない人に片思いしてるのか、平川は」

 と、私の空想を壊す声が聞こえてくる。

「な、盗み聞き!? 安藤最低」
「隣なんだから、嫌でも聞こえてくるっつうの」

 悪びれる様子もなく、安藤は私たちの方に体を向けて話す。

「だったら、黙って聞いてなさいよ」

 安藤はいつも私たちの会話に乱入してくる。隣の席だからって、プライバシーってもんがあるでしょうよ、と言いたくなる。
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