サンタクロースに恋をした
「そんな片思いしてるより、もっと身近にいい男がいるだろ」 

 まただ、安藤の自惚れ。

「は? 誰よ」
「俺に決まってんじゃん? 彼氏になってもいいぜ?」
「はっ」

 安藤はこうして偶に私のことをからかってくる。

 本気じゃないくせに、どうしてそんなに軽く言えるのか私には理解が及ばない。

「なんだよその笑い方」
「なんでも」

 彼氏になってもいい? そんな言葉に頷くほど私は軽くない。

「でもさあ、実際彼のこと何も知らないわけじゃない? 安藤の言う通りもっと周り見たら?」
「……無理」
「那美……」

 クリスマスにあんな振られた方をした私は、そのクリスマスの彼以外の男の人に対して信頼することが出来なくなった。

 いつかまた裏切られる、いつかまた酷い振り方をされる、いつかまた私じゃない誰かを好きになる。

 そう考えると、恋に踏み出せない。同じ場所でずっと、ずうっと足踏みをしている。

 でも、……クリスマスの彼は、私の中でいい意味で実体がない。いや、この世に存在していることは確かなんだけど。

 私にとって彼は、テレビの中の芸能人のような存在で、遠い存在にあるからこそ好きという気持ちを持つことが出来る。身近に居なければ裏切られることもないから。

「まあ、そんなわけで、クリスマスにまた会えるかなあなんて期待しているわけです」
「なるほどね」
 
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