サンタクロースに恋をした
「那美ちゃん、上手ねえ」
「いえいえ、梨衣名先輩ほどじゃあ」

 放課後、甘い匂いの充満する調理室。バターと砂糖の香りは食欲を刺激する。 

 今日のお菓子はココアとプレーンの色合いが美しいアイスボックスクッキー。四角いものや丸いもの、三角のもの、いろんな形のものを作ってみた。

「早速紅茶と共に頂きましょう」
「はいっ」

先輩はお気に入りの花柄のティーポットにダージリンを用意して、お湯を入れていく。

 クッキーの甘い香りとダージリンの茶葉の独特な香りが絶妙に合う。

 紅茶を淹れる先輩の姿は女の私でも見惚れてしまうほどに麗しく、自分の存在が恥ずかしくなってしまうほどだった。それに、あの人と同じで瞳の色素が薄くてグレーがかっている。

「そうだ、あのね、今日はもう1人」
 先輩の言葉が終わる前に教室の扉が音を立てて開いた。誰だろう、と思いながらそっちを向くと。

「あっ……」

 目元しか分からない。でも、その目元ははっきりと覚えている。奇麗なグレーの瞳は、忘れたくても忘れられない。

 その人が近付いてくると、苺の香りがふんわりと漂ってくる。この香り……間違いない、あの人だ。
< 9 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop