彼女を10日でオトします~裏話・番外編~
「はいよ、生」
薫が俺の前にジョッキを置いた。キンキンに凍ったジョッキは、表面を白く曇らせている。
「なあ、ヒデ」
と、薫。
「たすくの奴は、まだ、あのこと根に持ってやがるのか?」
「さあ。アイツは肝心な事、口に出さなねぇから。
でも、琴実に辛くあたる原因っちゃあ、あのことしかねえだろ」
「ったく、たすくは。
琴実は悪くねえだろうに」
パーラメントに火をつける薫。それをくわえたまま上を向いて、天井に煙を短くはいた。
「たすくだってよ、んなことは、わかってんだよ。だろ?薫。
だからこそ、琴実にどう接したらいいかわかんねぇんだと俺は思ってる」
「……救えねぇなぁ」
天井を仰いだままの薫は、ぽつりと呟いた。
「ああ、救えねぇよ……」
くもったジョッキにタプタプしているビールは、やっぱり冷たかった。
「でもよ、いっちばん救えねぇのは、お前だな、ヒデ。
間に挟まれちまってよ。カワイソーに」
薫は、煙草から上る煙の向こうでニヤリと形のいい唇で弧をえがいた。
はあ……。
カウンターの上に無造作に置かれたラッキーストライクを手に取る。
……っざけんな。
そのままボックスを握り潰した。
「薫、1本くれ」
「はは。ついてねぇ男だな、ヒデは」
「……うっせ」
ジョッキのくもりを親指で拭う。ジョッキの中の黄色い世界は、思いのほかキラキラしていた。
たすくの心も、いつか、こんな風に晴れる日がくるのだろうか。
了
薫が俺の前にジョッキを置いた。キンキンに凍ったジョッキは、表面を白く曇らせている。
「なあ、ヒデ」
と、薫。
「たすくの奴は、まだ、あのこと根に持ってやがるのか?」
「さあ。アイツは肝心な事、口に出さなねぇから。
でも、琴実に辛くあたる原因っちゃあ、あのことしかねえだろ」
「ったく、たすくは。
琴実は悪くねえだろうに」
パーラメントに火をつける薫。それをくわえたまま上を向いて、天井に煙を短くはいた。
「たすくだってよ、んなことは、わかってんだよ。だろ?薫。
だからこそ、琴実にどう接したらいいかわかんねぇんだと俺は思ってる」
「……救えねぇなぁ」
天井を仰いだままの薫は、ぽつりと呟いた。
「ああ、救えねぇよ……」
くもったジョッキにタプタプしているビールは、やっぱり冷たかった。
「でもよ、いっちばん救えねぇのは、お前だな、ヒデ。
間に挟まれちまってよ。カワイソーに」
薫は、煙草から上る煙の向こうでニヤリと形のいい唇で弧をえがいた。
はあ……。
カウンターの上に無造作に置かれたラッキーストライクを手に取る。
……っざけんな。
そのままボックスを握り潰した。
「薫、1本くれ」
「はは。ついてねぇ男だな、ヒデは」
「……うっせ」
ジョッキのくもりを親指で拭う。ジョッキの中の黄色い世界は、思いのほかキラキラしていた。
たすくの心も、いつか、こんな風に晴れる日がくるのだろうか。
了