【極上の結婚シリーズ】ママになっても、御曹司に赤ちゃんごと包み愛されています
「家族ごっこか……」

虚しさが滲むその単語を、旦那さまは拾い上げた。いっちゃんと家族になれない私が口にするには、卑屈すぎる言葉だった。

「すまないね。どうして私が莉帆ちゃんの決断に難色を示すのか理解不能だろう。つい先日、もし莉帆ちゃんがつらいならいつでも樹を切り捨てていい、そのときは私が樹を説得するからと告げたばかりなのに。二転三転するにもほどがある」

「旦那さまは絶えずみんなの幸せを考えているから、そうなるんだと思います」

「私はそんなにできた人間ではないよ」

苦笑いする旦那さまには、哀愁が漂っていた。けれど本当にどうでもよければ今朝の矢野さんのように、二つ返事で私を厄介払いすればいいだけだ。真剣に考えているからこそ、旦那さまは状況の変化に心が揺れるのだろう。

「実は来週末にあるベリーヒルズビレッジの四十周年パーティーで、妻が樹に会わせようとしている女性がいるんだ。家柄も容姿も申し分のない、妻好みのお嬢さんだよ」

不意に旦那さまは、奥さまの今後の計画を私に打ち明けた。

私は何も言葉を返さず、ただその現実を噛み締める。

近い将来、いっちゃんはその人と結婚するような、そんな予感がした。

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