【極上の結婚シリーズ】ママになっても、御曹司に赤ちゃんごと包み愛されています
あの夜、いっちゃんは私を好きでいてくれた。泉はいっちゃんと私が――パパとママが愛し合って生まれてきたのだ。一生結ばれることのない運命でもあの瞬間のだけは、私たちの心はひとつだった。その事実を知れただけで、私はもう十分だ。

だから私は、おぞましい嘘をつく。

いっちゃんが私じゃなく、然るべき人を愛せるように。

「……実は私、あのときほかに恋人がいたんだ。それどころか、すでにおなかに赤ちゃんもいたの。それなのに私はいっちゃんと軽はずみに浮気するような……不誠実な女なんだよ」

ふしだらだと思われてもいい。それくらいじゃないと、きっと説得力がない。

泉は少し早産で生まれてきたから、もし逆算されたとしても見抜けないだろう。

「……」

いっちゃんはぐっと眉根を寄せ、何かを堪えるような顔をした。

「……でも、さすがに幼なじみのいっちゃんとあんなことして後ろめたかったから、なかったことにしたかったの。私が行方をくらませたのも、それが理由だよ。本当の私を知られたくなかったんだ」

本当のことなんてひとつもない。でも嘘も百回言えば真実になるという。ならばきっとこんな作り話も、つき通せば本当になるだろう。

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