その背は美しく燃えている【中編】
 それでも他人が途中まで描いた作品を自分のものにするのは躊躇われた。床に転がったままのキャンバスに私は手を伸ばせない。



「同じ価値でもさ、これって盗作な気がする」



 正直に告白する。すると彼女はままならなさに舌を打ち、頭皮を力任せに掻き毟る。おおよそ先輩に対する態度ではない。瞳が天井の端から端までをなぞり、ひとしきり唸ったあと、彼女は「ああ」と頷いた。



「この向日葵は残骸です。残骸を彩ることで、先輩史上最高の作品が見れるかもしれません。……見て見たくないですか? 最高傑作」



 私の中の確固たる正義が揺らいだ。最高傑作という文字が持つ重みが肩にのしかかり、自然とキャンバスに手を伸ばす。紙面に触れた指先から、彼女の向日葵に含まれた感情が流れてくる。より素晴らしい芸術を貪欲に求める本性が猛威を奮っていた。それを私の手で彩ってみたいという感情が、泉のように湧き出てくる。



「いいの?」


「はい!」



 床からキャンバスを拾い上げ、抱きしめる。これは私のものだ。誰がなんと言おうと、私の最高傑作を描いてやる。

 彼女に礼を述べると、謙虚を飾ったいつもの姿で「とんでもないです」と頬を染めた。変わり身の早さにもはや脱帽する。



「あ! 先輩先輩」



 そのトーンは先ほどまで見せていた強気なものではなく、弱々しさを繕っていたけれど、私は確かに見た。



「私、凪先輩描いて賞とってみせますから。油断しないで下さいよ」



 彼女の瞳に潜む、果実の切り口から覗く果肉のように、あぶり立てるような激情を。
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