その背は美しく燃えている【中編】
「ありがとう……」



 屈託もなく無邪気に笑う。その目尻からはあいも変わらず涙が溢れているが、今までの涙とは違う、憑き物が取れたような、そんなように感じた。


 ふと、凪が空を仰いだ。佐野もそれを追う。澄み通った星空の中で、真珠のようにひんやりと白く小さい光が頑なな意思を持って、そこに腰を据えていた。



「あのね、私、火曜日しか居ないじゃない」


「おう」


「それ、あの子の配慮なの。いつでも私が絵を描けるように、部員全員に頭下げてくれて。火曜日の五時二十分からだったらって」


「いい後輩だな」


「うん……ねぇ」


「なに?」


「月が、綺麗だね」



 凪の指が、佐野の手を拾った。それは、柔らかにけれど揺るぎなく包み込んでいた。握り返すと、彼女は穏やかに笑い、いっそう力を強める。思いがけないほど優しい感覚だ。暖かさだ。
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