その背は美しく燃えている【中編】

寄り添う



 耳を切り裂く冷たさに、佐野は顔をマフラーに埋めた。隣に座る凪はその所作を見て、クスクスと無邪気な笑い声を上げる。

 美術室からの帰り道、少しお出かけをしたいと凪が言ったため、ならば近場の公園で話でもと思ったのだが、いかんせんこの時期は寒い。この場所を提案したことに、授業中に指名され、答えを間違えてしまった時に似た変に気づまりな、足の裏がむず痒いような心地になる。



「ごめんなぁ。こんな場所で。今度はもっとちゃんとしたところ行こう」


「うーん、私、どこでも楽しいよ」



 小学生みたいに明るく、雲一つない夏の空のように笑う。言葉に幸福が絡まっているのは、彼女とあの刃のように鋭い白月を見てからだ。佐野は目の前が不思議な明るさを帯びてくるのを感じる。

 砂利と靴が擦れる音がした。凪が立ち上がった音だ。そのまま彼女はトイレの横にある自販機に向かい、飲み物を買った。自動販売機に向き合って、凪は昼間みたいに照らされていた。ホットコーヒーを二つ揺らしながら帰ってきた凪に、頭を下げる。佐野の垂れた前髪の隙間から、困ったように笑う彼女の顔が見れた。寒さに鼻を赤らめ、口から吐く息がその色を隠している。



「やっぱ寒い日はあったかい飲み物だよ」


「だなー」



 返事しながら、ふと見上げた空はどんよりした黒だった。黒々としたものを見ていると、世界の片隅に押しやっていた悩みやら苦しみやらが顔を出してくるので、佐野は眉を寄せる。



「どうした?」



 元いた位置に腰をかけて凪が言った。いたるところが剥げ落ち、木材が露出している椅子が軋む。佐野は彼女の顔を見ていられず、足元に視線を逃す。砂利が塩を撒いたように霜柱に凍てついていた。


 凪がプルタブを開ける音がする。それが佐野の落ちた視線の前に差し出された。缶に満ちるコーヒーが水銀灯に照らされて、濁った水溜りのように鈍い光を放っている。ミルクもガムシロップも入れていないままのホットコーヒーを一口がぶりと飲む。香ばしく、すっきりとした苦みと、透き通ったキレのある味わいがした。
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