その背は美しく燃えている【中編】
戯れ合う
十二月のきつい風が、凪のフレアスカートを切り裂いていった。時刻は十一時前。ショッピングモールの手前にある噴水広場で、凪は一人、アンティーク調の屋外用設備時計もたれかかっている。
佐野と約束したデートと思うだけで、昨日は浮き足立って寝付くのが困難であった。柔い眠気を枕に擦り付ける度に彼の顔が浮かぶのだ。もどかしくて瞼を持ち上げれば、天井の広さ程の空想が描かれる。凪の逃げ場はいよいよ無い。結局布団から飛び出して翌日の用意をするのだから、寝付けたのは深夜二時頃のことだった。
そうして手持ち無沙汰にしているうちに、時刻は約束の時間をとうに過ぎ、十一時の終わりを迎えようとしていた。周りは平成最後の冬を満喫しようという輩で溢れかえっており、凪はその一人一人に目を向けては、彼では無いのだと身勝手に落胆する遊びを始めてみる。すると、いい加減足裏が痛み始めてきた頃、特徴的な髪型をした人物が、その人波の隙間をすり抜けるようにして名前に近づいてきていた。彼は人目を惹くルックスを最大限活用した所作で凪を呼ぶ。凪はまるで操り人形になってしまったかのようにふらふらとした足取りで彼との距離を詰めていく。
「あ……」
誰に宛てたわけでもなかった。凪は自分自身の為だけに呟いたのだ。そうでもしなければ、この男に自我を奪われてしまうと思ったから。
化繊の黒いスキニーパンツに白のシャツ、そしてダウンジャケットという格好で現れた彼は、パンツと同じ色をしたリュックを背負っていた。色合いといい、着方といい、自分をいかによく魅せるかを熟知しているようであった。首元で光彩を放つリングネックレスは彼のお気に入りらしく、紐の所々から糸が遊んでいる。普通ならば小汚いという印象を受けるのに、顔が端正なだけでそれさえも物への愛着があるという一つのステータスになるのだから、顔面が良いとは恐ろしいものである。
「ごめんな。待った?」