その背は美しく燃えている【中編】
窓枠に切り取られた空は一月色である。なんだか年が明けた実感がなく、ここに居るのは夢なのではないかと疑いなく思ってしまう。そうしてふと、断続的に叩かれる扉の音がした。入室を促し、絶句する。
「佐野くん……」
そこには凪がいた。久しぶりに見た彼女は前に見た時よりいっそうやつれていて、けれど生への欲がひたむきに彼女の瞳に宿っていた。彼女は佐野の姿を認識すると、幽霊が乗り移ったかのような所作でベッドに近づき、佐野の手を握る。外の寒さからか凪の手は氷のように冷たい。
「ごめん、なさい。私のせいで、こんな……こんな」
涙がはらはらと崩れて、頬を濡らしていく。とめどがないそれを、佐野は繋がれていない方の手でそっと拭ってやる。
「生きててよかった」
凪は膝から崩れ落ち、顔をベッドに埋める。彼女の嗚咽だけが白い箱の中で静かに響く。彼女の頬から離れて手持ち無沙汰にしている手を頭に置き、そぉっと撫でた。
氷の鞭のような風が窓を叩きつけている。春はまだ来ないらしい。寒い寒いと凍えてしまいそうな冬を照らすのは、きっと触れれば交わる感情だろう。
「凪さん。笑って」
泣いているより、笑っている方が凪は何倍も綺麗だ。
凪は埋めていた顔を持ち上げて、涙を頬にへばりつかせたまま、青空のような笑顔を見せる。といっても、眉が不恰好な形で、口元も結ばれていたが。
「そういえばね、佐野くん」
掠れた声の凪がコートから携帯を操作する。涙も拭わずに携帯をいじる姿はなんだか面白くて、佐野は思わず勢いよく笑った。凪が驚いて携帯から佐野に視線を移す。
「な、なに笑ってんの!」
「いや、だって……凪さんが面白いから」
「何もやってないよ⁉」
「佐野くん……」
そこには凪がいた。久しぶりに見た彼女は前に見た時よりいっそうやつれていて、けれど生への欲がひたむきに彼女の瞳に宿っていた。彼女は佐野の姿を認識すると、幽霊が乗り移ったかのような所作でベッドに近づき、佐野の手を握る。外の寒さからか凪の手は氷のように冷たい。
「ごめん、なさい。私のせいで、こんな……こんな」
涙がはらはらと崩れて、頬を濡らしていく。とめどがないそれを、佐野は繋がれていない方の手でそっと拭ってやる。
「生きててよかった」
凪は膝から崩れ落ち、顔をベッドに埋める。彼女の嗚咽だけが白い箱の中で静かに響く。彼女の頬から離れて手持ち無沙汰にしている手を頭に置き、そぉっと撫でた。
氷の鞭のような風が窓を叩きつけている。春はまだ来ないらしい。寒い寒いと凍えてしまいそうな冬を照らすのは、きっと触れれば交わる感情だろう。
「凪さん。笑って」
泣いているより、笑っている方が凪は何倍も綺麗だ。
凪は埋めていた顔を持ち上げて、涙を頬にへばりつかせたまま、青空のような笑顔を見せる。といっても、眉が不恰好な形で、口元も結ばれていたが。
「そういえばね、佐野くん」
掠れた声の凪がコートから携帯を操作する。涙も拭わずに携帯をいじる姿はなんだか面白くて、佐野は思わず勢いよく笑った。凪が驚いて携帯から佐野に視線を移す。
「な、なに笑ってんの!」
「いや、だって……凪さんが面白いから」
「何もやってないよ⁉」