その背は美しく燃えている【中編】
 戸惑いと怒りを滲ませて凪が佐野にデコピンをかます。わざとらしく痛いと言うと、彼女に一蹴された。



「……って、そうじゃなくて。これ見て。私の後輩の絵なんだけど」



 写真を見つけたのか凪は満足そうに頷いて佐野に携帯を寄越す。佐野は携帯を受け取り、凪に見てもいいのかと目配せする。彼女は少し笑ってみせた。



「君になら」



 あまりにも綺麗な笑顔だったものだから、佐野は黙って携帯に視線を逸らした。

 そこには、一人の少女がいた。赤や黄、様々な色を掻き分けるように、画面左下から右上に向かって手を伸ばしている。少女の容姿は死んでいるか生きているかわからないような輪郭で描かれ、しかし、燃えるような激情が伝わる。その感情の隙間から不完全である弱さが顔を出している。佐野は直感的に凪だと思った。少女は金髪で、瞳も海のように透き通っていて、凪とは全く似ていなかったけれど、強くそう思った。

 愛しさが込み上げて画面をなぞる。ふと、画面下に作品名が書いてあることに気がついた。画面を拡大して文字を読む。題名は――――燃える背。



fin


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