その背は美しく燃えている【中編】
「それはつまり、聞きたいの? 絵のこと」


「そうだけど、でも、凪さんが辛いなら別に聞かないよ。ただ、凪さんの好きな食べ物とかそんなのが聞きたいかな」


「そんなこと?」


「おう!」




 海辺凪は悪魔じゃない。佐野はそれだけ知っている。けれど、それ以外の凪の魅力を知りたいと思った。言いたいことは多分そういう事だった。理解するして、体の中の空間が少し膨らんだ気がした。

 前を見ると、彼女は初舞台を踏む新人女優のように胸に手を置き、睫毛を伏せ、静かに息を吐いていた。月の光が左の頬だけに当たって、右の頬だけぽっくり失われている。美しかった。苦しくなるほどに。



「私は、わたしは、悪魔なんかじゃない」



 それは、魂の絶叫。箍が外れた凪の顔が、流れる涙のために歪む。



「今年の夏にコンクールの予選があったわけ。絵のね。そこで私はこの向日葵を描いたんだけど、それが始まりだった」
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