崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 レイラは大きく目を見開いてとアイリスを見つめる。そして、こぼれ落ちそうになっていた涙をぐいっと拭った。

「わかりました」

 力強く頷くレイラを見つめ、アイリスは微笑む。

「ありがとう。いいわね? 元気でおてんばなアイリス=コスタはいなくなったわ」

 アイリスは目を閉じ、覚悟を決めるように深く息を吸う。もう、後戻りはできない。

「これから先、私は外では別人として生きる。あの子が元気になるまでよ。私は──」
「あなたは──」

 レイラの声が震える。

「コスタ子爵家当主、ディーン=コスタ」

 その日、コスタ子爵家の令嬢、アイリスは女としての人生を捨てた。

 皮肉にもそれは、本来であれば社交界デビューを終えたアイリスの嫁入り準備に大賑わいとなるはずの十七歳の誕生日だった。

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