崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 ここにいると碌なことがない。
 場所を変えようと、立ち上がって厩舎へと向かった。

「ディーン」

 厩舎の中で、ピシッと黒色の騎士服を着込んで自身の馬の世話をするアイリスの後ろ姿を見つけ、カインは声をかける。

「ああ、カイン」

 アイリスは愛馬を手入れするブラシを手に持ったまま、こちらを振り向いて口元に微笑みを浮かべる。

「どうしましたか? 機嫌が悪いですね」

 ペアであるカインの変化を敏感に感じ取ったようで、アイリスは小首を傾げる。

「また、同期のやつに聞かれた。ディーン=コスタは女だろうと」
「そう……」

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