崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
「ディーン!」

 カインが叫ぶ。

 ──こんなところで、死ねないわ。ディーンが待っているもの。

 アイリスは霞みそうな目をしっかりと開き、なんとか握っていた剣を支えに再度立ち上がる。そして、目の前の男の顔面に回し蹴りを入れた。男が背後に倒れ、気を失う。
 作業員の一人が「ひっ!」と悲鳴を上げて逃げてゆくのが見えた。

「あと四人……」

 息が切れる。
 相手の剣をまともに受けたのかカインの悲鳴が聞こえたが、自分のことに必死で加勢する余裕はなかった。いつの間に切ったのか、目の上から滴り落ちる血のせいで視界がよく見えない。
 ドタドタと階段を駆け下りてくる足音がまた聞こえてくる。

「皇都騎士団だ! 床に伏せろ!」

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