崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
「なんだ、この安物の茶は? 当主の後見人が来たのだぞ? 珍しい蒸留酒のひとつを若い娘に用意させるくらい、気を回すことはできないのか?」

 リチャードは口答えすることもできず、平身低頭して詫びていた。相変わらずの様子に、アイリスは内心でため息を吐く。

「叔父様」

 アイリスはシレックに声を掛ける。〝いらっしゃいませ〟という歓迎の言葉は決して口にしない。

「我が家は今、両親の残してくれた僅かな遺産を切り崩して暮らしております。高級茶を常時用意しておけるほどの余裕がないことはご理解下さいませ」
「おお、アイリス。少し見ない間に一段と美しくなったな」

 シレックはアイリスの言葉を完全に無視するかのように両手を広げて大袈裟に喜ぶ仕草をした。アイリスは儀礼的な挨拶を返すと、ローテーブルを挟んで叔父の正面に座る。
 シレックはアイリスのその様子に、鼻白んだような表情を見せる。

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