崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 アイリスは縄をしっかりと掴むと太った大きな体を引き起こし、無理矢理歩かせる。
 そして、拘束された他の者達と共に、輸送する任務を負う団員に引き渡すために移動させた。

 シレックは、心のどこかでアイリスが親戚である自分を悪いようにするはずはないと舐めていたのだろう。
 縄で縛られて連行されてゆく人々の様子を目前にして、ようやくアイリスが本気で自分を引き渡そうとしていると気付いたようだ。

「待て、アイリス。これは何かの間違いだ。今まで散々世話してやっただろう?」

 すがるような目で訴えかけるシレックを見つめ、アイリスは首を横に振った。

「世話になったことなど、一度もありません。あなたがしたのは搾取だけです」
「アイリス! この恩知らずの薄情者が!」

 背後から罵声が聞こえてきたが、アイリスは振り返らずにその場を立ち去る。
元の場所に戻ると、既に部屋の処理は終わっており誰もいなかった。

< 233 / 300 >

この作品をシェア

pagetop