崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
「あれから一年か。早いものだ」
「本当に」

 アイリスも頷く。

 突然婚約者に婚約を破棄され、自慢の髪を切り落とし、騎士団に潜入した。
 がむしゃらに走り続けた一年だった。

「お前にはいつも、驚かされる」
「そうでしょうか?」 
「ああ。ドレス姿で男を殴るわ、性別を偽って騎士団に潜入するわ、やることが突拍子もない。かと思えば、こうして淑女のようにも振る舞える」
「淑女に見えますか?」

 アイリスはドレスのスカートを摘まむと、微笑む。
 たった一度でも彼に綺麗だと思ってもらえたなら、それでもう十分だ。

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