崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 薬屋を振り返りつつ歩き出したそのとき、ドンっと誰かに体がぶつかってアイリスは体をよろめかせた。

「あ、ごめんなさいっ」

 よそ見をしていて前を見ていなかった。
 慌てて謝罪したアイリスは、目の前の小汚い男の不自然な動きに違和感を覚えた。

「だれか! 泥棒だ! 財布を取られた。そいつを捕まえてくれ!」
「え? 泥棒?」

 向こうから誰かの叫び声が聞こえ、目の前の男が慌てて走り始める。
 泥棒とは、もしかしてこの人のことだろうか。
 アイリスは慌ててその男を追いかけた。足の速さには自信があるのだ。

「待ちなさいっ!」

 ようやく追いついたところで、男が振り返る。
 二人組のようで、少し前を走る別の男も立ち止まってこちらを向いた。

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