崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう」

 こちらを向いた男性の顔を見たアイリスは、目を見開いた。

 ──この人、舞踏会で会った人だ……。

 一方の男は一瞬だけ目を見開いたように見えたが、すぐに元の表情に戻った。以前と違い、アイリスがバッサリと髪を切り男の格好をしているので、気付いていないのだろう。

「震えているくせに、無茶をする」
「あ……」

 アイリスはそこで初めて、自分が小さく震えていることに気が付いた。

 捕らえられた盗人の体は、血で真っ赤に濡れていた。アイリスを刺そうと襲いかかってきたときに、助けに入った目の前のこの男が切りつけたのだ。

 アイリスはディーンと共にずっと剣の真似事をしてきたが、本物の剣を使った実戦をしたことがない。
 始めて見る真剣での戦いに、背筋が冷たくなるのを感じた。

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