崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 少女と睨み合っていた盗賊の一人が拳を振り上げて襲いかかる。

「危ないぞっ!」

 殴られる! そう思ってレオナルドが叫ぶのとほぼ同時に、少女の体がふわりと舞った。
 まるで先ほど見かけた大道芸人の曲芸のように身軽な動きで攻撃をギリギリで避けると、流れるような所作で盗賊の脇腹に箒の柄で一撃を加える。

「うがっ!」

 強力な打撃を受けた盗賊は脇腹を押さえて倒れ込む。
 少女は持っていた箒の柄を地面に付きその箒の柄を軸にして回転すると、別の盗人の顔面に痛烈な回し蹴りを炸裂させた。短く切られた、金に近い琥珀色の髪がふわりと揺れる。

 ──なんて奴だ……。

 しなやかな動作、凜とした佇まい、煌めく髪。
 その一つひとつが美しかった。
 そして、こんな奴がいるなんてという純粋な驚き。

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