崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
──いつか自分も素敵なドレスに身を包んで、着飾って、隣には大好きな人がいて……。
そんな未来を当たり前のように思い描いていたあの頃は、今思えば人生で一番幸せだったのかもしれない。
「実際にもらったのは、プレゼントどころか婚約破棄の言葉だったわ」
自嘲気味な笑いを漏らし髪飾りから目を逸らすと、先ほど渡されたばかりの白い封筒が目に入った。
それを見た瞬間、現実に引き戻されたアイリスは目を閉じて天を仰ぐ。
腰まで伸びた髪に手を触れると、それはさらさらと指の間からすり抜けた。この国の人間にしては薄い色合い、琥珀色の髪は、日の光を浴びると金色にも見える。
皆から美しいと褒められる、アイリスの自慢のひとつだった。
「大丈夫、私にはできるわ。大丈夫よ」
毎日の家事で荒れてしまった手にナイフを握ると、意を決して強く引く。ざくっと音がしてはらはらとそれが床に落ちた。焦げ茶色の木の床に、波のような模様ができる。
そんな未来を当たり前のように思い描いていたあの頃は、今思えば人生で一番幸せだったのかもしれない。
「実際にもらったのは、プレゼントどころか婚約破棄の言葉だったわ」
自嘲気味な笑いを漏らし髪飾りから目を逸らすと、先ほど渡されたばかりの白い封筒が目に入った。
それを見た瞬間、現実に引き戻されたアイリスは目を閉じて天を仰ぐ。
腰まで伸びた髪に手を触れると、それはさらさらと指の間からすり抜けた。この国の人間にしては薄い色合い、琥珀色の髪は、日の光を浴びると金色にも見える。
皆から美しいと褒められる、アイリスの自慢のひとつだった。
「大丈夫、私にはできるわ。大丈夫よ」
毎日の家事で荒れてしまった手にナイフを握ると、意を決して強く引く。ざくっと音がしてはらはらとそれが床に落ちた。焦げ茶色の木の床に、波のような模様ができる。