崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました

2

「医務室に行こう」
「何をっ! 傷の手当ては済んだ。全て掠り傷です」
「嘘をつけ! これで掠り傷のわけがないだろうっ!!」

 ぐいっと腕を引かれ、アイリスは息を呑んだ。白いはずのシャツが血塗れだ。
 きっと、包帯が緩んでまた傷口が開いたのだ。

「離せ。必要ありません」
「必要ないわけないだろう! 医者嫌いもいい加減にしろ!」

 壁を殴るドンっという音がして、カインが不機嫌そうに目を眇めた。掴まれている右手を引いたが、全く動かなかった。カインの方が力が強い上に、傷が痛んで力が入らないのだ。

「今日こそは絶対に医務室に連れて行く」
「いやです」
「断る。怪我をした奴とペアを組まされたんじゃ、こっちがいい迷惑だ」

 吐き捨てるようにそう言ったカインは、アイリスの手首を引く。

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