崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 これ以上はぐらかすのは無理だ。
 部屋で腕を見せるだけならばれないだろうとアイリスは腹を括った。

 ランプに照らされた少し薄暗い室内で傷口を見せると、カインの眉間の皺は更に深いものに変わる。

「なにか掠り傷だよ。ざっくり切れてるじゃねーか。平気な顔をしてられるのが不思議なくらいだ」

 アイリスは無言で俯いた。

「やっぱり医者に診せた方が──」
「駄目っ!」

 カインの言葉を、アイリスは咄嗟に否定する。医者だけは絶対に駄目だ。

「なんでだよ。それに、胸の辺りもこんなに広範囲に包帯を巻くなんて──」

 そこまで言いかけて、カインは何かに気付いたようにハッと言葉を止めた。きつく巻いても限度がある。あるはずのないアイリスの胸の膨らみに気付いたのかもしれないと思い、アイリスはサッと顔を青ざめさせた。

< 95 / 300 >

この作品をシェア

pagetop