崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 カインの実家は田舎で床屋をしていると言っていた。田舎では十分な人数の医者がおらず、床屋や薬屋が医者の真似事をするというのはアイリスも知っている。

 カインは針をアルコールランプで炙ると、「痛むが我慢しろ」ともう一度アイリスに告げる。

「ぐっ」

 引き攣れるような鋭い痛みに思わず声が漏れる。カインはチラリとアイリスを見たが、手を止めることはなく黙々と作業を終えた。

「終わったぞ。化膿止めを塗ったが、これだけの傷だ。今夜は熱が出るかもしれない」
「はい」
「食えるうちに飯を食って体力を付けておけ」

 薬箱を部屋に戻しに行ったカインは、すぐにアイリスの部屋に戻ってきて「食堂が閉まる前に行くぞ」と声を掛けてきた。最初に着ていた白いシャツから深緑のシャツに着替えたアイリスは、カインの背中を追う。

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