崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
「……。なぜ、何も言わないのですか?」
「何が? 俺はひどい医者嫌いの奴がペアになったから、できる処置をしてやっただけだ」
「見たのでしょう?」

 カインは立ち止まると、背後にいたアイリスを振り返る。

「傷なら見たぜ。とんでもない強がりな野郎だと呆れた」
「…………」
「俺にとってはディーンは騎士で、俺の相棒だ。これまでも、これからもだ」

 アイリスはハッと顔を上げ、カインの顔を見つめた。
 カインは少しだけ困ったように眉尻を下げる。

「まあ、正直だいぶ驚いたけどさ。何か事情があるんだろ? だから俺は、今日は傷しか見なかった。それでお終いだ」
「……ありがとう」

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