狼くん、ふれるなキケン!


頭がぐらぐらする。


平静を装って、ひなを抱えたまま階段を上がる。2階まで上がるだけの階段がやけに長く感じた。




「むう……ろうくん、だめ、です……」




ひなが腕のなかでもぞもぞ動く。
髪の毛が鎖骨のあたりにあたってくすぐったい。

し、動揺した。
ふれるところ全部が、柔らかくて。




「ろう……くん、きいて、る……?」




相変わらずの寝言。
寝ても醒めても飽きずにずっと喋っている。

舌っ足らずの甘ったるい声で、なぜか、ずっと俺の名前ばっかり。





「ひな、うるさい……」





聞こえていないとわかっていても、咎めるように口にしてしまう。




はー……と大きく息を吐き出した。


だめだ、狂う、ぜんぶ、おかしくなる。
意識してしまう、考えないでおこうと心の奥の方にしまっていたぜんぶ、勝手に引きずりだされてしまう。




「……は? おい」




眠りこけているとはいえ、抱えられて足が宙に浮いていると落ち着かないのか、やけにもぞもぞ動くひなを取り落としてしまわないように、力を入れて抱え直す。


そのタイミングで、ふと気づいてしまった。




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