狼くん、ふれるなキケン!


優しくするつもりなんて最初からぜんぜんない。

気を遣うつもりも、むしろ、ひなと必要以上に関わるつもりなんて、本当にない。



なのに、結局のところ、こうやって。
思いどおりになってくれない。



腹いせに、ボフッと少し乱雑に、ひなの体に掛け布団をのせた。





「……」





ひながここに戻ってくるなんて、思わなかった。

小学校にあがる直前に、手も声も届かない、どこか遠くの街へ行ったっきり、もう二度と戻ってくるつもりもないんだと思っていた。



何も聞かされていなかった。
だから、驚いた。本気で。



はじめは幻覚かと思った、あまりに急に目の前に戻ってきたから。




『おまえ、誰?』





驚きすぎて混乱して、とっさに知らないふりをした。

ひなのことをなにもかも、覚えていない、ふりをした。



ほんとうは、忘れるわけがないのに。
10年経ったって、ひなはひなだって、ひと目でわかる。




それくらい、俺は────。





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