狼くん、ふれるなキケン!
素知らぬ顔で、投げやりテキトーに言われた。
ぜんぜん真剣に取り合ってくれない。
「蚊はまだ飛んでないですもん」
まだそんな季節じゃない。
この時期に蚊に刺されたなんて聞いたことない。
「……じゃあ、ダニ」
それっぽい虫の名前言っておけばいいと思ってるな、これは。
狼くんってば、肝心の私の首もとを見てすらくれないの、気づいてないと思ってる? ばればれなんだからね。
狼くんに心の中で文句をとなえながら、もう一度鏡をのぞきこむ。
たしかに、虫刺されに見えなくもない。
でも、かゆくないし……うーん……と考えこむ。
そんな私の様子に狼くんはため息をついてから。
「日頃の行いが悪いんじゃねえの」
「え゛っ」
日頃の行いのせいなの……!?
そんなことってある……?
あまりにも皮肉めいた言葉にさすがに悲しくなってきた。
しょぼんと肩を落として落ちこんでいると。
「虫に食われたくなかったら、長袖長ズボンでも着て寝れば」
「無茶言う……! 暑くてそんなのやってられないです!」
「……ほんとバカ」
それだけ言い捨てて、今日も今日とてひと足先に準備を終えた狼くんは、もちろん私のことを待ってくれることもなく、すたすたと玄関の方へ向かっていく。
あわてて私も、ポニーテールのてっぺんにギンガムチェックのシュシュを結わえて、その背中を追いかけた。