狼くん、ふれるなキケン!


素知らぬ顔で、投げやりテキトーに言われた。
ぜんぜん真剣に取り合ってくれない。




「蚊はまだ飛んでないですもん」




まだそんな季節じゃない。
この時期に蚊に刺されたなんて聞いたことない。





「……じゃあ、ダニ」





それっぽい虫の名前言っておけばいいと思ってるな、これは。


狼くんってば、肝心の私の首もとを見てすらくれないの、気づいてないと思ってる? ばればれなんだからね。



狼くんに心の中で文句をとなえながら、もう一度鏡をのぞきこむ。



たしかに、虫刺されに見えなくもない。
でも、かゆくないし……うーん……と考えこむ。


そんな私の様子に狼くんはため息をついてから。





「日頃の行いが悪いんじゃねえの」

「え゛っ」




日頃の行いのせいなの……!?
そんなことってある……?



あまりにも皮肉めいた言葉にさすがに悲しくなってきた。

しょぼんと肩を落として落ちこんでいると。





「虫に食われたくなかったら、長袖長ズボンでも着て寝れば」

「無茶言う……! 暑くてそんなのやってられないです!」

「……ほんとバカ」





それだけ言い捨てて、今日も今日とてひと足先に準備を終えた狼くんは、もちろん私のことを待ってくれることもなく、すたすたと玄関の方へ向かっていく。



あわてて私も、ポニーテールのてっぺんにギンガムチェックのシュシュを結わえて、その背中を追いかけた。





< 133 / 352 >

この作品をシェア

pagetop