狼くん、ふれるなキケン!


一度ゆるんだかのように思えていた空気が、またぴりぴりとひりつきはじめる。

ふたりの間にばちばち火花が散っているように見えるのも、たぶん、気のせいじゃない。


一触即発、ってきっとこういう状況を的確にあらわすために使う言葉なのだと思った。




「なんとか言いなよ、藤川狼」

「……」

「ああ、それかおれが代弁してやってもいいけど」



お前、ひなちゃんが絡むと途端にわかりやすくなるしね、なんて付け足したまやくん。



思わず目を見開いた。



私には狼くんのやること成すこと、ぜんぶ難解なのに、まやくんはわかるって言うの……?

ハッタリを疑ったけれど、まやくんは本気の目をしていて、どうやらそういうわけでもなさそう。




「……っ?」




なぜか、まやくんが私の腕をするりと手にとった。それで、見せつけるみたいに狼くんの目の前で指を伝わせる。


柔らかい感触がくすぐったくて、きゅっと肩を縮めると、狼くんがにわかに顔を歪めて。




「俺は────」




渋々、口を開いた、ちょうどそのタイミング。





「ちょっと、真矢また近原さんに絡んでるのっ!?」




ぱたぱたと小走りの足音。

直後、渡り廊下の端から狼くんの言葉を遮るように響いたのは、我らが頼れる風紀委員、道枝さんのとがめるような声だった。




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