狼くん、ふれるなキケン!
「はー、ゆっきーってほんとマジメだねー」
今すぐにでも教室に戻るべき時間。
なのに、まやくんはまったく悪びれずに、「ゆっきーはもっと肩の力抜いた方がいいんじゃなーい?」なんて、呆れ気味に笑っている。
「ともかく真矢はその手を近原さんから離してっ!」
まやくんって、やっぱり道枝さんには若干従順な気がする。
私の腕にふれていた手をとがめるように彼女が指差せば、あっさりとその手は離れていった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、道枝さんは言葉を重ねる。
「それで、今すぐ教室に戻る! ほら、近原さんもっ。早くしないと遅刻しちゃ────」
不自然なところでぷっつり途切れた道枝さんの声。不思議に思って首をこて、と傾げる。
見れば、彼女の視線は私の真後ろに注がれていた。
「ふ、藤川くん……?」
「……」
どうやら狼くんの存在にたった今気づいたらしい道枝さんは、びっくりしたように目を見開いている。