狼くん、ふれるなキケン!
道枝さんは何気なく口にしたけれど、私はびっくりしてしまった。
「えっ、狼くんってそんなに人気者なんですか?」
「う、んー……」
目を丸くする私に、少し眉を寄せた道枝さん。
心なしか、煮え切らない感じで。
「人気者というか……むしろ、その逆、というか」
「……?」
苦笑い、妙に歯切れのわるい道枝さんにきょとんとしていると。
「その、悪目立ちって言うのが正しいかな」
「わる……?」
「たぶん、あのイカつめの顔立ちからなんだろうけど、こわいウワサが出回っちゃってるんだよね」
「こわいウワサ……」
「バックに不良グループをいくつも従えてるとか、近づくと殴られるとか、中学生からカツアゲしたとか、警察沙汰になったとか────」
「っ、ありえないですそんなの!!」
ガタンッ、と大きな音が鳴り響く。
机と椅子の揺れる音。
それが、自分が勢いよく立ち上がったからだと気づいたのは、少ししてからだった。