狼くん、ふれるなキケン!
狼くんが、ん、と腕を差しだしてくる。
有無を言わさない様子だったから、外へ出ていくのはしぶしぶ諦めた。それに、狼くんが『ここにいて』って言ったんだもん。
逆らえない、逆らうつもりもない。
いつもと変わらない命令形でも、ぜんぜんちがう。
胸の奥のほうをぎゅっと甘くつかまれた。
「痛くないですか……?」
消毒のつづき。
どこもかしこも生々しい傷で、しみないわけがないのに、あまのじゃくな狼くんはかたくなに首を縦にふらない。
こんなの、痛いに決まってるのに。
なんなら、こうして見ているだけでも痛いと思うくらいだもん。
「やっぱり病院でみてもらった方が……」
「こんくらい、別に、どうってことない」
「十分ひどいですよっ!」
またむくむくと湧き上がってくる。
やっぱり、狼くんにこんな怪我させたひとたちのこと、ぜったいぜったいゆるしてあげないんだから……!
むす、と頬をふくらませていると、狼くんが私の手当てする傷口をじっと見つめながら、ぽつり、口を開いた。
「……ひなって、俺のことこわがらないよな」
「……? はい」
「ただの一度たりとも、なかった」
それは……。
「あたりまえですよっ」
だって。
「狼くんといて、一度もこわかったことがないからです」
こわがる理由がひとつもない。
そりゃあ、顔がコワいなーって客観的に思ったり、にらまれたときには心臓がきゅっとなったり、なにを考えてるのかわからなくて戸惑ったり……。
そういうことはあるけれど、本気でこわいと思ったことなんてないの。
それこそ、“ただの一度たりとも” 。